その日、当直の先輩とささやかなお別れの酒を酌み交わした。
おれは今後の自衛隊生活を考えながら眠りについた。
数時間経ったころ――
気持ちいい、爽やかな寝心地だった。
おれは気がついた。
見知らぬ女性がすでに私に覆いかぶさっており、口をふさがれていた。
――キスされていたのだ。
女性はどうやら緊張しているらしい。
目と目があったとき、女の表情が引きつっているのがわかったのだ。極度の緊張であるらしい。
目がつりあがって見えた。かわいそうなほど緊張していた。
女性はなにもつけてなく、全裸のようだった。体の凹凸はわからなかったが、なにしろ密着していて、まるで合体しているようだった。
僕にとっては願ったりかなったりだ。こんなきれいな女性と密着しあって、しかもキスされているのだ。
僕は彼女に身を任せ、ずうっと見知らぬ女性とのソフトなキスを楽しんだ。
霊たちは裸のときのほうが多い。服ももちろん着ていることもあるが、ボデイペイントのように見かけだけのものらしい。だから触ると透けてしまって、裸体に触ってしまう。
さわやかな、炭酸ソーダ水に満たされているような清涼感の中にあった。
キスに酔いしれているうちに、いつの間にか現実にもどっていた。
咲夜姫なのだろうか?
真っ先に思ったのはそれだった。
咲夜姫が告白にやってきたのだろうか? 女性からの夜這いだった。おとことしてはかなり刺激的なことである。
しかし、だったらなぜ今までやってこなかったのだろう。
おそらく咲夜姫は僕がずっとこの神社にいるのだろうと油断していたのかもしれない。
やめるとわかって慌ててやってきたのだろう。
僕はそう思い起こしてみると、なにやら不思議な女性の夢を見ていたことを思い出した。すべて夢の中の出来事である。
これは三年間の間に見たわずかな夢である。記憶に残っている限りでは二回だけである。
――お宮の拝殿にいた。
ちいさな女の子と遊んでいた。
その女の子の姿はよく見えなかったが、僕にまとわりついて喜んでいるようだった。
でもちいさなくせに僕におおきな胸を押し付けて、
「ほれほれ――」といって胸を提供していた。〈ほれほれ〉というのも小さな子にしては不釣合いな言い方だった。
女の子は裸ではなく舞姫の衣装を着ていた。でも、不思議と胸を中心とした上半身だけで、顔はおろか全身を見ることは出来なかった。視界が狭くなっているような気がした。
夢自体は鮮明でその子の舞姫の衣装が萌黄色(もえぎいろ)で美しかったことを覚えている。
――僕の夢はいつも鮮明で色も美しかった――
とにかく僕はこの女の子と拝殿の中を遊びまわった。
僕は彼女の存在を感じたし、その感覚は現実で人といる時と同じだった。
もうひとつの夢は、どういうわけかマリリンモンローと一夜をともにしている夢だった。
僕は外人でもないし、マリリンモンローは特に好きではなかった。
しかし彼女は来ていた。マリリンのような女だと言ったほうがいいだろう。
マリリン自体が大きく感じた。彼女の裸体にまとわりついたネコといったほうが当を得ている。
とにかく大きかった。女の体に埋もれるというのはこういうことなのだろうか?
僕は当然のごとく女の一番大事な部分を捜そうと思った。男としてはそこが一番気にかかる。
ところがあるべきところにそれがないのだ。つまり、穴がない?
のっぺらぼうだった。夢の中だったが、面食らったことを覚えている。
やっぱり男として目的を達したい。
しかし、いくら探してもそれは見つからなかった。
そんな夢だったが、実はその舞台は社務所だった。僕が当直のときにその夢を見たのだ。
寝ている場所もそのままだった。そこで暗やみの中、なぜかマリリンモンローに似た女と絡み合っていたのだ。
僕はそんな場合、普通の夢と区別している。もちろん普通の夢も見る。だが明らかに違うのだ。夢は何がしかのストーリーがある。そしてそのストーリーからはみ出せない。ストーリーがなく、なんとなく遊んでいたり散策していたりもするが、そんなときは自意識がなく、夢を見ていることはわからない。
ひょっとして、このマリリンも咲夜姫の化身だったのだろうか?
咲夜姫がマリリンに変化するとき、大事なものを付け忘れたのかもしれない。
見たのは三年間なのにこの二つだけである。
0 件のコメント:
コメントを投稿