2010年7月5日月曜日

   地獄の底から咲夜姫あらわる

自衛隊の休暇を利用してお宮に帰っていたあるとき――

今日はえらい禰宜さんの当直ではないので気がらくだ。
夜遅くなったので寝ることにした。
遠慮はいらない。
応接間のソファの上で寝ることにした。社務所は広いのでどこで寝てもいい。

うつらうつらしていると、すでに向こう側の世界に入っていた。

恐ろしいものが地の底から近づいてくるのがわかった。
非常に大きな物体だ。もの凄い霊気が突き刺さるように感じた。
〈ヒエ~~~、神社の下にこんな化け物がいたのか~~~〉
おれはパニック状態になった。しかし、ここは神社なので大丈夫だとおのれに語りかけた。
死ぬことはないだろうとは思ったが、それでもどうなるのかわからなかった。
逃げようともしたが、強力な金縛りがかかっているらしい。まったく動けなかった。

仰向けに寝ているので直下の様子はわかるわけはないのだが、この世界では感覚でわかるらしい。
後ろにも目がついているような感じだ。

うしろの目で遥か下から非常な高速で近づいてくる化け物の姿が見えた。
それは大蛇か竜のように大きく、身をくねらせながらまっすぐにこちらにやってきた。
あきらかにおれが狙いなのだ。
まるで深海の海竜が浮き上がってくるようで、そのさまを見てますます身の毛のよだつのを感じた。

顔も見えた。それは竜でも大蛇でもなく、人間のような顔だった。が恐ろしい。
しかし、よく見ると向こうのほうも恐ろしい顔をしているわけでもなく、僕に会うのを怖がっているようだ。
それが不思議だったのだが――それにしても来て欲しくはなかったのだが。

もう見てもいられず、そのまま凍り付いていた。
〈ああ、もう来た…………〉と、絶望的だったのだが……
不思議とその物体が近づいた時には、それまでの恐怖感は消えていた。
あれっと思ってまわりを見てみると、すぐ相向かいのソファにちいさな女の子がいた。
いつもの女の子だ。おれはなんとなく安心して、きっとこの子はおれのことが好きなんだなっと思った。
無意識にこの子が咲夜姫なのではないかと感じていたのかもしれない。

愛する者同士に言葉はいらない。
彼女もそれを欲していたのだろう。僕たちは合体した。
――合体という言葉が一番いいだろう。
彼女はまったくの少女だったが、法律的には罰せられるが、この神様は厳密に言えば2000歳は超えているだろう。

強いて言わせてもらえば、もう少し大人の女であったらなあと思ったのだが、神様は昔から童形で現れると神官時代に習ったとおり、子供の形で現れるのだ。これは私たちの世界とは逆で、えらい神霊、古い霊ほど若返るのかもしれない。私たちが子供から成長し大人になるように――大人の私たちを人間とするなら、子供の姿のときこそ神霊に近いのかもしれない。

 しかし、この童形であるということが、私をして咲夜姫を敬遠する一因ともなった。子供を恋愛対象として捉えることは出来なかったのだ。当たり前ではあるが。
 しかし、いま思うと、神様は決まった形をしているわけではない。マリリンモンローにだってなれるし、虫にだってなれる。そのことに気づかず、咲夜姫が身近にいたことにも気づかなかった。
 それが遠回りした結果となったが、それもひとつの思い出深いラブストーリーなのかもしれない。

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